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福岡高等裁判所 昭和59年(う)381号 判決 1985年3月26日

本籍

長崎市十人町一二六番地

住居

長崎市上野町二三番七号

無職

松島昇

大正九年一月二七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について昭和五九年五月二二日長崎地方裁判所が言い渡した判決に対し被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は検察官吉川壽純出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金六万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人松尾千秋提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、原判決後において被告人は幸産業株式会社から利息制限法所定の利率を超過する利息支払分を不当利得として返還するよう求めて長崎簡易裁判所に調停の申立を受け、これに応じるときは被告人の昭和五五年度から昭和五七年度までの所得額も減少し、右各年度分の所得税も大幅に減少することとなり、被告人が本件で免れたとされる所得税額もこれに応じて減少するはずであり、そうだとすると、被告人に対する原判決の量刑も不当に過酷なものとなるから、原判決を破棄し、妥当な量刑を求めるというのである。

そこで所論に鑑み職権を発動して原審記録及び証拠を検討し、当審における事実調の結果をも参酌するに、これに現われた原判決後の情状、とりわけ被告人は所論指摘のとおりの調停申立を受け、その結果、昭和五九年九月六日、長崎簡易裁判所において、幸産業株式会社が被告人に対し昭和五三年度の過払分七九二万四〇五七円の返還を免除し、被告人が幸産業株式会社に対し、昭和六〇年四月末日限り、昭和五四年度の過払分一四五一万四〇一四円、昭和五五年度の過払分一八八〇万五七〇一円、昭和五六年度の過払分二六二六万五一二七円、昭和五七年度の過払分三五一四万八九二〇円、合計九四八三万三七六二円と、昭和五三年度から昭和五七年度までの過払分合計一億二七五万七八一九円に対する昭和五八年一月一日から昭和五九年九月六日までの年六分の割合による利息一〇三七万六八五五円の二分の一の五一八万八四二八円、総計一億二万二一九〇円を支払うという内容の調停が成立したこと、そこで被告人は昭和五九年一〇月二九日、長崎税務署長に対し、右調停に基づき被告人の返還債務が確定したことと被告人が昭和五七年に金融業を廃止したことを理由に所得税法六三条、国税通則法二三条二項により昭和五六年と昭和五七年分所得税の更正の請求をしたところ、昭和六〇年二月一三日、長崎税務署長は被告人が金融業を廃止した時期を昭和五八年度と認定のうえ昭和五七年度分として六九三九万五五一二円を新たに必要経費として算入し、同年度分の所得金額を零とする旨の更正をしたこと、被告人は多額の本件重加算税を未だ納入していなかったが、右更正決定によって昭和五九年三月五日修正申告によって納付するなどした昭和五七年度分の所得税は全額還付されることとなったうえ、右重加算税は右還付金により充当され未納分はなくなると考えられること、被告人は遅くとも昭和五八年四月には金融業を廃止したことが長崎税務署長によっても確認され、被告人にはこの種税法事件について再犯のおそれは殆んどなくなっていることが認められ、これらの事実を総合すると、現時点においては、原判決の量刑はいささか重きに失することとなり、当審において是正するのが相当である(なお、原判決はその法令の適用の項において懲役刑の執行猶予に関する法令を摘示していないが、この量刑の理由の項において懲役刑の執行を猶予する趣旨が明らかにされていると認められるので未だ判決に理由を附せない違法があるとはいえない)。

そこで刑訴法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により自判する。

原判決が認定した事実に原判決と同一の法令を適用(刑種の選択、併合罪の処理を含む)し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは刑法一八条により金六万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、右の懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間その執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田治正 裁判官 井野三郎 裁判官 坂井宰)

○ 控訴趣意書

被告人 松島昇

右の者にかかる所得税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和五九年八月三日

右弁護人弁護士 松尾千秋

福岡高等裁判所 第三刑事部 御中

一、原裁判所は被告人に対し、懲役一年六月、罰金四〇〇〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金六万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。旨の判決宣告をした。

その罪となる事実は原判決の理由らんの罪となる事実記載のとおりであり、被告人も争わないところである。

二、ところが、口頭弁論終結後である昭和五九年七月一九日幸産業株式会社(長崎市家野町六番一八号、代表取締役 鯉田淳一)から被告人を相手方として長崎簡易裁判所に調停の申立がなされた。

その調停の趣旨は、幸産業が被告人に対し別紙年別利息支払表記載のとおり利息制限法所定の利率を超過する利息を支払っているので、この超過支払分を不当利得として返還を求めるというにある。

不当利得として返還を求める金額を年度別でみると、

昭和五三年度 七九二万四〇五七円

昭和五四年度 一四五一万四〇一四円

昭和五五年度 一八八〇万五七〇一円

昭和五六年度 二六三六万五一二七円

昭和五七年度 三五一四万八九二〇円

合計 一億〇二七五万七八一九円である。

三、被告人は昭和五五年度から昭和五七年度分の所得税の申告に当って、真実は昭和五五年度に七九三一万四五九八円の、昭和五六年度に七九四七万五三一九円の、昭和五七年度に六八五九万六六八九円の各所得があったのに過少申告をして所得税を免れたとして訴追されている。

前記調停事件において、被告人が不当利得金の返還義務あることを認めれば、昭和五五年度から昭和五七年度までの所得額からこれらの金額を控除しなければならないことになる。

そうすると、被告人の所得は

昭和五五年度 六〇五〇万八八九七円

昭和五六年度 五三一一万〇一九二円

昭和五七年度 三三四四万七七六九円

となり、右各所得に対する所得税も大幅に減少することとなり、被告人が免れた所得税額も相応に減少するはずであり、被告人に対する前記量刑は不当に過酷であると言わざるを得ない。

四、よって、原判決を破棄し、妥当な量刑を求めるものである。

五、なお、前記調停事件の第一回調停期日は昭和五九年九月六日に行われると聞いているが、調停の結果がどのようになるかは現時点では明らかでないので、判明次第補充控訴趣意書を提出する予定である。

疎明資料

一、調停申立書 一通

以上

(別紙1)

年別利息支払表

<省略>

調停申立書

〒八五二 長崎市家野町六番一八号

申立人 幸産業株式会社

右代表者代表取締役 鯉田淳一

右申立人代理人弁護士 馬場正裕

〒八五〇 長崎市栄町一番二〇号

相手方 松島昇

過払金返還請求調停申立事件

調停事項の金額金一億〇二七五万七八一九円

貼用印終額 金二一万二五〇〇円

申立の趣旨

相手方は、申立人に対し、金一億〇二七五万七八一九円並びにこれに対する昭和五八年一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。との調停を求める。

申立の理由

一、申立人は、土木建築請負等を業とする株式会社である。

二、相手方は貸金業者である。

三、申立人は相手方より、昭和五三年一月一日より同五七年一二月末日までの間に、別紙二(利息制限法所定金利に基づく計算書)(1)欄記載のとおり、継続的計算により金員を借入れ、かつ同(2)欄記載のとおり元利を支払ってきた。そのうち利息分を帳簿により年別にまとめると別紙一(年別利息支払表)(1)欄記載のとおりである。これに対する利息制限法所定の利息は、同(2)欄記載のとおりである(別紙二(4)欄の計算による)。

したがって別紙一(3)欄記載のとおり昭和五七年一二月末日では最終的には一億〇二七五万七八一九円の過払分となった。

四、よって申立人は相手方に対し、右過払金を不当利得としてその返還を求めるとともに、これに対する昭和五八年一月一日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による利息の支払をも求めるものである。

添付書類

一、資格証明書 一通

一、委任状 一通

昭和五九年七月一九日

右申立人代理人弁護士 馬場正裕

長崎簡易裁判所 御中

(別紙1)

年別利息支払表

<省略>

(別紙2)

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和53年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和53年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和53年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和53年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和54年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和54年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和54年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和55年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和55年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和55年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和56年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和57年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和57年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和57年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和57年)

<省略>

(日歩・365日の場合)

10万未満 10万以上100万未満 100万以上

0.0005479 0.0004931 0.0004109

利息制限法所定金利に基づく計算書(昭和57年)

<省略>

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